五百羅漢
喜多院の山門を入ると右手に石の塀が続いている。その中をかいまみると、石の人物像
がたくさん並んでいる。これらは、その姿態や表情の多様さで、近年とみに著名となった、
五百羅漢である。
中央に禅定印を結ぶ釈迦如来と脇侍の普賢・文殊の両菩薩を配し、周囲に538体の漢
像が並ぶ姿は壮観である。
この五百羅漢は、天明2年(1782)に北田島村(現、川越市)の志誠(しじょう)という人
物が発願して造立をしはじめ、多くの助力者や遺志をついだ喜多院の坊さんたちの手に
より、文政8年(1825)に完成したものである。前後50有余年の大事業であった(市指
定史跡)。
関東天台の名刹・川越喜多院に残る五百羅漢の群像は、総数538体といわれるが、古刹
の厳粛な雰囲気とは対照的に笑いとユーモアの氾濫である。江戸期の民衆の中にあ
る笑いが、ここにもっとも明らかに露出した≠ニいわれる、新しい民衆の信仰、あるい
は民衆芸術の誕生でもあった
山門の右側にある石の羅漢像。全部で538体あり、つくられたのは江戸末期のことでさ
ほど古いものではないが、表情の豊かさに定評があり、ひとつとしておなじ顔をしたもの
がない。こうしたことから、深夜ひとりで行ってひとつひとつ顔をなでてゆくと、必ず一体だ
けぬくもりをもつものがあり、それに印をしておいて朝方来てみると、その顔は亡き親の
顔、あるいは自分の顔にそっくりだという。残念ながら、現在は昼間しか拝観が許されて
いないのでためすべくもないが、じっくり見ていくと、たしかに親の顔や自分の顔に似た像
にお目にかかれる。
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